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2005年11月10日

サイボーグ技術が人間を変えているコト

NHKスペシャル「サイボーグ技術が人類を変える」を観て、鶴見が最も衝撃を受けたのが、「脳味噌にコネクタを付けた人が既に存在する」というコトだ。

番組中では、カメラの映像を脳味噌に直接入力している盲人の方が紹介されていた。原理的には、眼鏡に付けたCCDカメラの信号を、腰に巻いているコンピュータを使って、脳の中を流れる視覚信号に変換(変調・シンセサイズ・エミュレート、どの語が適当なんだろう?)し、頭蓋骨に設置したコネクタを通じて神経に入力する、というやり方だ。

かき分けた髪の毛の間に現れるコネクタ。フィクションの世界ではお馴染みの光景だが、実際に観るとかなり衝撃的。その思いっきりにキンタマキュ~。

ちなみに、この方が見ている画像は白黒で解像度も粗いのだが、それは、このシステムを開発した研究者が開発後に逝去してしまった為だという。もしバージョンアップを続けていれば、最新の技術で今頃はカラー画像になっていたトコロだろう。まあそれでも、暗闇の世界と比べれば、光が見えるコトは感動的なほど嬉しいのだそうな。

だが、コネクタぐらいで驚いてちゃいけない。最近は聴覚障害者の為に「人工内耳」というモノが開発され、ある程度は一般化しているらしいのだが、それなどはワイヤレスだ。

耳のマイクロフォンが集音した信号は、こめかみに磁力でピタっと貼り付けた送信機から、受信機に向けて送られる。んでもって受信機は、頭蓋骨の裏。そこから聴覚神経に信号線が引かれているのだ。まあ、画像と音声じゃ転送量というか帯域幅が違うけど、WiFi流行りの昨今、確かにコネクタなんて要らんよな。


ここまでサイボーグ技術が発展した原因は、ここ数年の間に、脳内の信号を検出する技術が格段の進歩を遂げた為らしい(学会も、ここ5年で急速に盛り上がる様になったのだそうな)。プローブ(センサー)自体は新発明ではなさそうだが、それを脳内のどの部位に埋め込めば機能するのか、そういった研究が蓄積されてきたのだろう。

というか、プローブは本当にショボい。QFP系LSIの足が1列15本とか、そういうレベルの形状だ(サンハヤトアルプス電気で作ってそう)。なのに、密度の高い信号が行き来しているであろう脳味噌から、目的の信号を検出したり、目的の神経に信号をブチ込んだりしている。本当に大丈夫なのか?と心配になってしまうが、これで案外と大丈夫なのだそうだ。

推測だが、大雑把な入力信号でも学習によって、その信号に意味付けをするのではないか。あるいは、出力信号もやはり学習によって、意味のある信号に育っていくのではないか。

例えば、番組内で、腕を失った日本人女性が付けた「人工義手(触感センサー付き)」の例。fMRI(磁気共鳴断層撮影装置)を使って、(1)付けた当初と、(2)トレーニング(リハビリテーション)後の脳活動を比較しているのだが、(1)の状態の脳では様々な部位が活動しているのに比べて、(2)の状態の脳は、特定の部位のみが活動している。明らかに脳が学習して(ひょっとしたら信号も最適化して)いるのだ。


ここで鶴見は、森“ゲーム脳”昭雄の主張を思い出した。ゲームをしていると脳の活動範囲が狭くなってキレやすくなる、とかなんとかバカげた話だったはずだが、何のコトはない、それは単なる学習ではないか。

  • プレイヤーによる入力→(ゲーム機による評価)→報酬→入力→…

というフィードバックループが学習を促すのは当然であり、学習の結果、脳活動の範囲が狭まるのは、番組で示されている様に「当然」なのだ。するってえと何か、森昭雄は「リハビリでもキレやすくなる」と主張するつもりか。「リハビリよりもお手玉をやれ」なのか。脳の至極当然な活動に、恣意的でしかも扇情的な意味付けをしていた森昭雄の(学者とも云えない卑怯な)手口がよく解る。

そして同時に、世間が「ゲーム」と「脳」と「恐怖」という三題噺に過剰に反応した理由も推測出来る。「人為的なルールによる学習」というゲームの仕組みは、確かに「改造」とか「洗脳」というイメージ付けをしやすく、皮膚感覚的な「恐怖」を想起させやすい。「ゲーム」によって「脳」が不可逆的に改造される「恐怖」を、森昭雄のトンデモ本によって連想させられてしまったのではないか。まったく森の野郎、上手いツボを突きやがったもんだ。


――なんて論調でゲームを擁護しておきながら、一方で鶴見は、「サイボーグ技術とゲームを組み合わせれば、倫理的に問題はあるんだろうけど…相当に面白いんだろうなあ」とも夢想してしまう。

番組中、パーキンソン病(ドーパミン細胞の異常による脳疾患)の治療の為に、脳に信号を送る例が挙げられていた。ご存知のようにドーパミン細胞とは、生物の生存に必要な報酬の獲得に関わり、複雑な運動を学習するのに役立つことが知られている。鶴見は、ドーパミン細胞は、ゲームの快感発生にも強く関わっているだろうと推測している。

ならばその先には、脳に信号を送る「ゲーム」(と云っていいのか?)があるのではないか。

脳味噌から直接信号を取り出し、また信号を入力するコトが出来るのであれば、それこそ究極のインターフェースだ。ゲームに関して云うならば、昔、「レバーを動かしたら、ディスプレイ内の絵が動く」それだけで面白かった頃があったように、「考えるだけで何かが動く」というのには、根源的な面白さがありそうだ。学習の面白さもあるだろう。ひょっとしたら、ドラえもんの「エスパーぼうし」だって作れるかもしれない(「エスパーぼうし」で超能力を獲得するくだりは、極めてゲーム的だ)。

倫理的な面から云えば問題が大アリだし、万が一実現してしまったら、「ゲーム脳」の比ではないバッシングが待ち受けているだろう。

でも…誰かがやっちまうんだろうなあ…。ヒソカに楽しみにしている鶴見ではある。この話は「夢想」なんかではなく、もう明日にも実現可能で、今から思索を深めなければ間に合わない現実なのだ。

それを実感させてくれた番組であった。

【追記】
そういえば、『喜劇新思想体系』(山上たつひこ)に、脊髄の特定部位に電極を差して射精中枢を直接刺激する、なんてエピソードがあったっけ(アースしないと感電死します)。

【追々記】
最初は、本文の最後を

だが。そうした研究を通じて、「ゲーム」というモノが生理学的に解き明かされていけば、(サイボーグ云々を抜きにしても)少なくとも森昭雄みたいなトンデモ野郎が生まれる余地は無くなるんじゃないかなあ、と思った鶴見ではある。

とシメたんだけど、書いた後で思い直した。これほどの科学の世にもニセ科学はあるワケだし、それにダマされちゃう方々とか、ニセ科学を学校の教材にしちゃう方々まで居るのが現状。いくらゲームが生理学的に解き明かされていっても、森昭雄は嬉々として「ゲーム脳の恐怖」を書き続けるんだろうね。世にゲーム叩きのタネは尽きまじ、かも。

【追々々記】
立花隆氏のコラム(nikkeibp.jp)によれば、番組の最後で「人格脳」「身体脳」について語るつもりだったが、放映時間の都合でカットされてしまったのだという。まだ仮説に過ぎないそうだが、人格脳に影響を与えない身体脳の学習(改変、と言い換えてもよい)、というモノが明らかにされる過程で、森昭雄は正統なアカデミズムとの対決を余儀なくされるであろう(わーいわーい、どんどんやれー)。

【追々々々記】
番組を詳しくレポートしているブログからトラックバックをいただいた。今回のエントリーが解りにくい方は、こちらも読むといいかも。

カテゴリー: 新・嘘六百

投稿者 tsurumy : 2005年11月10日 23:59

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さいきん、突っ込むやからがいなくてさびしく思っていたら・・(笑 サイボーグ技術が人間を変えているコトで、鶴見六百氏がおもろいことかいてるじゃん。 ど... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年11月11日 12:50

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脳味噌から直接信号を取り出し、また信号を入力するコトが出来るのであれば、それこそ究極のインターフェースだ。ゲームに関して云うならば、昔、「レバーを動かしたら、... [続きを読む]

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先日ご紹介した、『サイボーグ技術が人類を変える』(msg:100620〜)という番組の続編が放送されるようなので、ご紹介します。 お時間のある方、ぜひ見て... [続きを読む]

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コメント

ご紹介ありがとうございました。
“エスパー帽子”笑いました^^;)
これからもよろしくです。

投稿者 雅無乱 : 2005年11月11日 20:58