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2005年03月26日

音相とOnsonicとネーミングのコト

鶴見とは「地声がデカい仲間」であるIGDA小野さんに以前教えてもらったのだが、「音相」を研究する音相システム研究所という会社があるのだそうな。

「音相」とは聞き慣れない言葉だが、かの研究所に曰く、

音相とは何か?~音がつくる表情は、意味に劣らぬ働きをしていますが(中略)ことばを印象深く大衆に伝えるには、意味だけでなく音が伝えるイメージの研究が重要であることに気づいたのが始まりでした。

確かに、一般的に「G」「Z」音は強さ、「S」「K」音はスマートさ、といったような、音には固有のイメージがあるとされている(実感としてもそうだ)。だが「音相理論」ではそこから一歩踏みだし――

(今までの)理論が、複雑な仕組みでできる音の表情を(中略)音響的には極めてラフな、「音節」の単位 でしか捉えていないことに理由があるのです。さまざまな要素が複雑に絡んでできていることばの表情は、音節を成り立たせているもう一段奥の単位で捉えなければならないのです。

解りやすく云えば、音節よりも細かい単位で音の「表情」を捉え(音相基)、さらには、既存の単語の「意味」と「音」の統計を採った(音用慣習)というコトだ。これらの要素をコンピュータにぶち込んだので、音の持つイメージを、客観的・定量的に解析出来るのだという。

つまり、「ネーミング」を評価する上で役に立つ理論だというワケだ。

百聞は一見に如かず。上記サイトにあるOnsonic体験版というCGIで、お試し音相解析をやってみよう。

「ラチェット」
活性的・動的: 90.0
爽やかさ・清らかさ: 87.5
現実的・合理的: 80.0
庶民的・適応性: 50.0
軽快感・軽やかさ: 40.9
都会的・現代的: 40.0
(以下、略)

なるほど、「ラチェット」はアクティヴで爽やかで現実的なイメージを醸し出すワードなのか(笑)――って、笑ってちゃイカンな。自分らがラチェットに託しているイメージと、大きくかけ離れていないコトを喜ばねば。なにしろ、音相理論に曰く、

ことばのもつ意味と、音が作るイメージが、一つの像に重なると、イメ-ジの輪郭がより明白になって印象鮮明な記憶に残ることばになる

と云うのだから。

当初、InsomniacおよびSCEアメリカから「新シリーズのタイトルを『Ratchet & Clank』にしたい」と提案された時、鶴見としては「日本向けに改変を行う前提」で同意したように記憶している。というのは、「ラチェット」という名前には「強さ」が欠けているように思えたし、加えて、「&(アンド)」という余計なワードがあったためだ。

そこで鶴見がまず考えたのは、「ラチェット・クランク」+「サブタイトル」という形だ。


ちと話題は逸れるが、鶴見式ネーミング作法によれば、ネーミングは「引っ掛かってナンボ」。先行の「Jak and Daxter」を「ジャック×ダクスター(じゃっくんだくすたー)」と呼称したのも、バタ臭さを消して「日本語的に」語呂を良くするのとともに、何らかの――見聞きした人間の脳に引っ掛かるような、そんな「?」を作りたかったのだ。まあ、ジャックに関しては賛否両論あったけれど(「ジャックソ」とも呼ばれたけど)、「ジャック」という極めて一般的な男性名に独自性を加えたという点では、これも「アリ」だったと思っている。

更に逸れるが、鶴見式ネーミング作法では、次の2点を重視する。


  • 「!」な語句+「?」な語句のコンビネーション

  • 日本語的な音節の連なり


具体的には、「クラッシュ・バンディクー」を思い起こしてもらいたい(鶴見の命名ではないけれど)。

前者に関して云うならば、「クラッシュ」という、一般名詞的でイメージの伝わりやすい単語が、即ち「!」だ。それに加えて、「バンディクー」という、初めて聞くような「?」な単語とのコンビネーション。実際、「バンディクー」という言葉を間違えて覚えるユーザーは数多く、「バンディグー」だの「バンデブー」だの「バンディーク」だの「ヴァンダイク」だの、ありとあらゆる間違い方をされたものだ――が、それこそが「フック」であり「独自性」だったのだと考える。聞いた人間の脳味噌には他者と混同されるコトなく刻み込まれたのだ。たとえ間違った形であろうとも。

後者に関しては説明が難しいのだが…一口に云うならば、チョムスキー辺りの言語論で謂うトコロの「偶然の空白」というヤツか(調べるべし)。日本語っぽく聞こえるはするけれど、たまたま日本語ではない言葉――つまり「空耳日本語」だ。

言葉は、視覚だけでは記憶されにくいが、発音を伴うと容易に記憶され得る(また、言の葉に上れば口伝えで伝播されやすい)。前項の「?」な言葉に関して云えば、ただ日本語に存在しない言葉を持ってきても、それは単に「理解不能」「記憶不能」というラベルを付けられて脳内をスルーされてしまうだろう。発音可能な言葉であった方が、記憶されやすいのは理の当然だ。その上で、口に出すと漂う違和感、これだ。「バンディクー」という言葉などは、「万事休す」と駄洒落で置き換えられるぐらい「日本語に前例のある音節の連なり」であり(まあ微妙だが)、聞いた人間はなんだか意味まで了解したつもりになれるのだが、実は収め所なく脳内を漂うからこそ、「?」足り得るのだ。

ちと補足しておくと、ここで云う「日本語的」とは、純然たる日本語を意味しない。ターゲットユーザー層の間で流通している言葉ならば良いのだ。例えば、「ロックンロール(Rock'n'Roll)」という言葉だって、鶴見的には「日本語」だ。それ故の、「ジャック×ダクスター(Jak'n'Daxter)」なのだ。


で、話をラチェットに戻すと、「Ratchet & Clank」という言葉をそのまま日本語読みした場合、「!」はあれども強くなく、「?」はあるようなないような(という時点で無いも同然なのだが)、というのが鶴見の評だったワケだ。有り体に云って、引っ掛かり無くスルーされそうなネーミング。そこで、、「『強さ』『勢い』イメージの強化」「独自イメージの付加」を意図して、先の「ラチェット・クランク」+「サブタイトル」という形を考えたのだ。

まあ実際には、久夛良木社長の意向により、英語表記ほぼそのままの形で世に出すコトになったのだが、上記のネーミングに対する考えが、久夛良木社長の目が届かなくなった2作目以降で日の目を見るコトになったのは、周知の通り。そう、「ガガガ銀河」というワードがそれだ。勢い+独自性+引っ掛かりの3連コンボは、ラチェット世界が持つ「色」を強調出来たのではないかな、と、自画自賛する鶴見である。

3作目では、当初「ゲバゲバ銀河」というワードを盛り込もうとしたのだが、「それはやり過ぎだ」との声が多く、却下となっていたりするが(笑)。

カテゴリー: 新・嘘六百

投稿者 tsurumy : 2005年03月26日 23:55

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コメント

すみません。「地声が大きい」おのですw
音相とりあげていただきありがとうございます。3年くらい前からけっこう注目してるんです。クランクの方がラチェットより一歩引いた結果になってるのも狙い通りですよね???

投稿者 おのけんじ : 2005年03月28日 22:12

クランクの結果の方が、ラチェットより一歩引いた形になっているのは、実は単なる偶然だったりします(汗
とはいえ、劇中でラチェットとクランクが相補的な存在として友情を育む、という構造が、
ネーミング的にも表れているのは、幸運な偶然だと云えますね。

投稿者 tsurumy : 2005年03月29日 20:27