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2006年06月25日

又も綴る「子供にゲームをさせよ論」のコト[後編]

「さて、休憩前にワタシが唱えた大胆発言、『ゲームと恋愛は似ている』説を解き明かす為に、ここで1冊、ある本を紹介させていただきたいと思います。それは『やる気を生む脳科学』という本です。著書の大木幸介さんという方は、脳生理学の分野では大御所と呼ばれる先生だそうで、なるほど確かにこの本『やる気を生む脳科学』も、深い知識に裏打ちされた、面白くて為になる話が満載です。『やる気』をコントロールする方法など、お子さんをお持ちの親御さんには役に立つ話も多いので、ワタシの話とは関係なく、ぜひお読みいただきたければと思います。実は、ゲームを作る側にとっても役立つ話が多いんですねコレ(笑)。講談社ブルーバックスというシリーズの新書ですから、ちょっとした本屋さんであれば、すぐ見つけるコトが出来るかと思います。

「『やる気を生む脳科学』によれば、人間の脳味噌には『デジタル・コンピュータ的な神経』と『アナログ・コンピュータ的な神経』が混在しているのだそうです。デジタルの方は電気信号を使って『判断・認識』などを受け持ち、一方でアナログの方は化学物質を使って、人間の精神活動を受け持っているんだとか。そして…このアナログ神経の中でも、特に重要な役目を担っているのが『A10神経』――別名『快感神経』と呼ばれるモノです。

「脳生理学的に云うと、『A10神経』=快感神経は、『意欲』や『性愛』『創造力』などの活動と密接に結び付いています。ここ重要なんで覚えておいてください…『意欲』『性愛』『創造力』ですよ。一口に云えば、気持ちいいコトはやる気が出るという、まあ当然のコトですね。でもそれだけじゃありません。今、『創造力』と云いましたが、気持ちのいい時に勉強や仕事なんかがサクサク進むのも、この結び付きのおかげです。脳味噌に快感を感じさせるコトは、脳の健康を保ち――ひいては生活を健康的に営む為にも、必須のコトなのではないかと考えます。

「そういう意味では、『脳を鍛える大人のなんちゃらトレーニング』も、認識力や判断力を鍛えるという以上に、脳に対して定期的に『快感』を与えて、脳味噌を健康に保つという意味合いも大きいのですね。なんとまあ、ゲームだって生活の『役に立つ』ワケですよ。『ゲーム脳』とか主張してるセンセイ、聞いていらっしゃいますか?(嘲笑) まあ厳密に云えば、TVゲームとA10神経が関わっていると証明されたワケではありませんが、ゲームによって快感が生まれるコトには間違いないので、その可能性は極めて高いと云って差し支えないと考えます。

「そして――ここで『恋愛』の話になるんですが、恋愛も、これと同じ脳のシステムによって成立していると考えられています。というより、そもそも恋愛の方が先にあって、TVゲームの方が同じシステムで成立している、といった方が正確ですか。…先ほど『意欲』『性愛』『創造力』と申しましたが、これらは脳内では『視床下部』という場所で連動しているんですね。…気持ちいいコトによって快感神経が活性化し、恋愛対象である相手に対する想い――まあ『性愛』ですね、それがどんどん湧いてくる――この湧いてくる、というのにはもちろん『創造力』が関わっているワケですけど、こうした脳の働きは、連動して起きやすい、それこそが恋愛だろう、というコトです。…なんだかこうして脳の機能としてお話ししちゃいますと、ロマンチックもへったくれもないんですが(笑)。

「ところが――ご存知のように、いいコトばかりじゃないんですね、これは。恋愛をしている時というのは、気分がバラ色なばかりではないコトは、皆さん身に覚えがあるかと思います(笑)。相手への想いが暴走して――本当に『暴走』という言葉がピッタリなほど、気持ちに収まりがつかなくなってしまうコトがありますよね? 相手のコトを想って、想いすぎて、他のコトが何にも手につかない状態。場合によっては、有りもしない浮気を疑って嫉妬に狂ったりもします。これらは、『創造力』が活性化され過ぎて、必要以上に色々なコトを発想してしまうコトによって起きるワケです。もちろん、『それ無しではいられない』というコトになってしまうので、社会生活との両立を阻害する、大きな要因です。

「これは何というか――『依存』ですね。脳味噌の視床下部が活性化したのはいいけれど、そこで生まれた『意欲』が、外部へ向かわずに、同じ対象にだけ向かって『閉じて』いる――他のコトへ向かわずに、それ無しではいられなくなる。それは正しく『依存』です。いやもう、『依存』はいけません、依存は。

「ここ数年、パチンコ依存が社会問題化していますが、あれなんかも同じ構造ですね。まあ同じ構造とは云っても、TVゲームの比ではないほど『依存』を引き起こしやすいのがギャンブルなんですが。例えばギャンブルには、『射幸心』という要素があります。当たるか当たらないか分からない…けれど当たるかもしれない…当たってほしい…そう期待する心のコトですね。ギャンブルは射幸心によって、TVゲームなんか全然比べモノにならないぐらいの強い依存を引き起こしています。

「『射幸心』と『依存』の関係を示す、こんな実験があります。先ほど触れました『オペラント学習』の実験なんですが――スイッチを押すと餌が出てくるような装置を使って、マウスに実験を行ったとお考えください。ただし、マウスを2グループに分けます。片方は『スイッチを押したら必ず餌が出る』装置を使い、もう片方は『スイッチを押したら、餌が出たり出なかったりする』装置を使いました。

「そして、両グループとも、マウスがスイッチを押すコトを学習した後に、今度は、スイッチを押しても餌が出ないように設定を変更したんですが…結果はどうなったと思いますか?――『スイッチを押したら必ず餌が出る』グループのマウスは、餌が出なくなったらスイッチを押すコトをすっぱり止めました。まあ当然ですね。ところが…『スイッチを押したら、餌が出たり出なかったりする』グループのマウスは、餌が出なくなっても、相変わらずスイッチを押してばかりいたんだそうです。きっと、『いつかは餌が出てくれるかもしれない』と期待しながら。

「恋愛も同じですね。スムーズに進む恋愛よりも、困難な恋愛、障害の多い恋愛、上手くいくかどうか分からないモノほど『燃える』ってヤツです。マウスも人間も、同じようなシステムによって『依存』へ陥ってしまうと云っていいでしょう。

「もちろん似た現象は、TVゲームによっても起こり得るワケです。実際ワタシも、とある有名なTVゲームにハマっていた時は、本当にもうそのゲームで頭が一杯でした。寝ても覚めても…目をつむっただけで、そのゲームの画面が目に浮かんだものです。仕事をしていても何をしていても、早く遊びたくてウズウズしていました。仕事も疎かになっていたかもしれません。――その頃の自分を分析すると…主に2つの要素から『依存』状態に陥っていたように思います。

「ひとつは、『長時間遊んでいたコト』。これは問答無用にそうですよね。短時間遊んでいただけでは、それに依存するはずもありません。ただし、その内容を詳しく思い出してみると、『1回に長時間、遊んでいたコト』これがマズかったのではないかと考えます。

「それはどういうコトかと云いますと…ゲームを一度に長時間遊んでいますと、これはもう、徐々に疲れてくるワケです。これは当然ですね。そして、自分では上手くやったつもりなのに、失敗したりする。成功したりもする。これが、ゲームの作り手が意図したモノならば、まあ我々は『過度にハマらないように』『飽きないように』作っているから良いんですけれど、疲れてもなお同じ場所を遊んでいて、『あともう少しで上手くいったのに!』なんてセリフを云っていたら――これはまるで、先ほどの『餌が出たり出なかったりする』マウスの実験と同じです。

「そしてもうひとつあります。『実生活とのリンクの仕方』がマズかったのです。先ほど、快感によって脳味噌の『創造力』が活性化されると申しましたが、じゃあそこで生まれた創造力がどこへ向かうのか…これがゲームの中だけで閉じていたらマズいコトになります。まあ、お子さんがお友達とTVゲームのコトについて喋り合うのは、他の話題も混ざるでしょうから、コミュニケーションの一環として特に問題はありません。しかし、誰とも喋らずにゲームのコトだけを考えていたら、これはあまりよろしくないでしょう。

「あと最近では、インターネットの掲示板などにも注意が必要です。インターネットの世界は玉石混交なので一概には云えませんが――詳しくは説明しませんが、次の言葉だけは覚えておいてください『ゲハ板』『信者』『ワロス』――こんなような言葉を日常生活で使い出したら、閉じこもった世界に依存し始める兆候です。ご注意ください。

「――さて、以上のコトから考えますと、お子さんがTVゲーム依存にならないようにする為には、お父さんお母さんにおかれましては、次のような態度が望ましいのではないかと考えます。

「まず、『長時間遊ばせない』。特に、同じ場所で長時間詰まっていたら、すぐに止めさせる、あるいは休息をとらせるコトは必須です。実はその方が、ゲームが上手くなるんですよ…と、ゲーム制作者が云っていたと、ぜひお子さんに伝えておいてください(笑)。また、もし云うコトを聞かないようであれば、強制的に電源コードを抜くのもアリです。最初はお子さんも文句を云うでしょうけれど、次第に『学習』して、ちゃんと途中経過を記録=セーブする術を覚えるコトは間違いありません。…あ、『記録しておきなさい』なんて云う必要はありませんよ。それを自分で気づかせる楽しみ…『ゲーム性』を奪っちゃいけませんからね(笑)。

「そして、『ゲーム体験を実生活とリンクさせる』これも重要です。具体的には、TVゲームを遊んだ後のお子さんに、ゲームの内容について話をさせるのがいいでしょう。今日はどこまで進んだのか、どこが難しくて、どこが楽しかったのか…ゲームを遊んだ後のお子さんは、先ほど申しましたように『創造力』が高まっているはずなので、いつも以上に親子の会話も弾むのではないかと思います。

「なんにせよ、TVゲームは恋愛と一緒で『反対するほど燃え上がる』類のモノですから、出来る限りオープンにするコトが望ましいのには間違いありません。特に…上の2つの方法を実行する為には、親御さんが、お子さんがTVゲームを遊んでいるところを、常に気にかけている必要があります。自分の部屋ではなく、お茶の間で遊ばせておき、家事の合間に気にかけて、声をかけたり質問したり…たまには一緒に遊んでみるのも良いでしょう。そうすれば、依存などにはなりようがありません。…えー…たまたま…ではありますが…ワタシの手がけているゲームは、お子さんだけでなく親御さんにも楽しめるモノが多いので…ぜひ購入候補にどうぞ(笑)。

「それでは、もう時間も無いようですので、最後に一言だけ云わせてください。――我々は、TVゲームという『娯楽』を作っています。しかし娯楽は、それが面白ければ面白いほど『毒』になる危険性も秘めています。ゲームを毒にしてしまわない為にも、親御さん方におかれましては、TVゲームについての理解を更に一層深めていただければと願う次第です。本日も、ご清聴ありがとうございました」

カテゴリー: 新・嘘六百

投稿者 tsurumy : 2006年06月25日 11:45

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