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2003年08月08日

嘘六百・第30回

ドリマガ最新号(7/11号)の「特許から探るゲームの未来!」という特集を、興味深く読ませてもらった。

ゲームなんぞを作っていると、否が応でも特許・商標には敏感にならざるを得ない。表沙汰にはならないが、過去には、他人の特許に抵触するゲームシステムや他社の商標などを入れてしまっている事がマスターアップ直前に発覚し(何故か直前にならないと発覚しないの法則!)、ギリギリに差し替え――あるいは発売延期する事すらあったからだ。特にタイトル名は秘すが、当時の関係者はお疲れサマ。とにかく、特許・商標と云えば、「Aバグ」「禁止表現(用語)」と共に、直前に発覚する恐ろしい罠として、ゲーム制作者の間で恐れられている。

私も実際、台本を書く際には他社の商標を不用意に入れてしまわぬよう、特許庁サイトの特許電子図書館を多用している。その頻度たるや、時期によってはGoogleよりも多い程だ。

実際には、あらゆる商標を避けるのは現実として不可能だし、また問題にならない場合も多いのだが――もし万が一、権利者がうるさがたで、ゴネられでもしたら、ダメージがあまりにもデカ過ぎるのだ。

例えばこんな具合に――


あれはちょうど10年前の事だったろうか。当時、激貧に困り果てていた私は、爪に灯をともすように積み立てていた持ち株を、泣く泣く取り崩す事にした。「社員持株会」を脱退したのだ。

ただし手続きの都合上、お金が振り込まれるのは1ヶ月後。あの頃、急成長を続けていたセガの株価は、今からは考えられない程の高値を付けていたので、それなりにまとまったお金を手にして借金生活に一息吐けるはずだった――あんな事件さえ起きなければ!

それは、世間では「コイル事件」と呼ばれている。アメリカの発明家・コイル氏が、セガと任天堂を特許侵害で訴えたのだ。しかもその内容ときたら噴飯物で、「音声を入力すると、それに画像が連動する」ただそれだけ。強いて拡大解釈すれば、全てのTVゲームが抵触してしまうという程、漠然とした内容だった。もちろんコイルとやらは単なるパテント・マフィア(特許ゴロ)で、羽振りの良かった大手ゲーム機会社に難癖つけて、金を出させようとしていた訳だ。

アメリカで行われていた裁判は徐々に劣勢となっていった。負けたら天文学的金額を支払わなければならない――セガも健闘はしたものの、最後には和解に応じたのだった。和解金は57億円(!)。

その報が伝えられると、セガの株価は、あれよあれよという間に急落していった――そして、よりにもよって最安値の月に、私の持ち株が換金されてしまったのだ!


許すまじ、コイル!

以来、セガには知的財産権部も出来、また社員の特許出願を奨励するようになった。前述のサイトを検索してみれば判るが、事件直後の1992年に出願された特許件数は異様に多い(私も「ゲーム装置」という特許(笑)の出願人となっている)。

57億円は、セガにとって高い授業料だったのだと思う――もちろん私が覚えているのは、自分が損したン十万の痛みだけなのだが!

この回も、ネタに困ったよ。

つうか、書くのに時間がかかりそうなネタしか思い浮かばず、「やっぱりオトそうか」「連載ヤメちゃおうか」といった後ろ向きな考えで心が満たされちゃったのであった。遺憾。

その中でも、いちばん早く書けそうな「特許ネタ」を選んだら――

――案外と早く書けちゃったんだから、やっぱ火事場の馬鹿力ってすごい(笑)。

この連載、文章量的には1~2時間で書ける程度のモノなんだけど、むしろ「内容を削って、規定量に収める」のが大変なんだよね。毎回、その作業に4~5時間かかるんだもの。
でも今回は、あっという間にピタっと収まったのでした。

それにしても、許すまじ、コイル

投稿者 tsurumy : 2003年08月08日 06:00

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