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2002年10月11日

嘘六百・第10回

 ゲーム業界は「一人またげば皆んな知り合い」と云われる程の狭い村社会で、別メーカーの友人と呑みに行ったり、友人の伝をたどって転職したりと、人的交流が盛んです。業界外の人間は、それを引き抜きだのと囃しますが、内部の人間は決してそうは思っていません…。


 私はセガに勤めていた当時、横浜に住んでいたのですが、何の因果か毎週末、同じく横浜のタイトー寮へ、泊まりがけで遊びに行くのを常としていました。タイトーの寮に、セガ社員の分際で潜り込み、夜を徹してビデオを観たり、麻雀をしたり、飲んで騒いで「スト2」をして――そこは同年代のゲーム好きが集う、一種の「若衆宿」だったのです。

 寮のメンバーで、私と最も仲が良かったのが、堀ちゃんというプログラマー。彼は「エグゼドエグゼス」でシューティングSTGに目覚めて以来、タイトーで「ガンフロンティア」「メタルブラック」など名作STGのメインを務めた程の凄腕です。
 そして私は彼に対して、ある邪(ヨコシマ)な考えを抱いていました――

「堀ちゃんをセガに引き抜きたい!」と。

 いや「邪」ではありません。私は企画屋として純粋に彼の実力に惚れ込み、彼と一緒に仕事をしたいと想っていたのです。

 私は堀ちゃんを掻き口説き、ついには彼の同意を得る事に成功しました。タイトーを辞めてセガに移籍る。ただし、今の仕事を整理して辞めるには、しばらく時間はかかってしまうだろう。
 私は一も二もなく待つ事にし――しかし土壇場で気を変えられないよう、私の家の近く、即ちセガへ通い易い場所に引っ越して貰う事にしました。


 さて、とある週末。新宿で「スト2ターボ」がロケテストを行っているとの情報が舞い込み、スト2好きの堀ちゃんと私は、軽い気持ちでコマ劇場そばのゲーセンへ見物に行ったものです。山のような人集り――そこで私は数年ぶりに珍しい人と会いました。ライター時代に顔見知りの、カプコン岡本吉起さんです。

 久しぶりの再会を祝し、我々は飲みに行く事になりました。もちろん初対面の堀ちゃんも同席しています。行きつけの居酒屋へ上がり込み、旨い日本酒をや飲りながら、ゲーム業界の四方山話に花が咲き、すっかりデキ上がった3人組――しかし私がトイレに立った隙に、岡本さんは堀ちゃんに言ったのでした。

「なあ、カプコンに来いひん?」


 堀ちゃんは、セガへ入らず、カプコン(大阪)に行ってしまいました。そして「X-MEN」等を作った後、NIN西谷氏らとアリカを興し、現在は取締役としてソフト部隊を率いています。しかし、もし――もし、スト2ターボのロケテに行かなければ。もし岡本さんに会わなければ。もし飲みに行かなければ――いや、これこそ「運命」というものでしょう、「エグゼド」好きで「スト2」好きの堀ちゃんが、「エグゼド」を作った岡本さんに「スト2」のロケテストで出会ったのは。

教訓:岡本さんには気をつけろ(笑)

タイトーの寮「アップルメイツ」については、同時期、同じ場所に居合わせた人間は、皆んな同じ感傷を抱くと思う。文中で書いたけど、まさに「若衆宿」。
ある部屋では麻雀の卓が立ち、ある部屋ではスト2の対戦が繰り広げられ、またある部屋では、綱島「松井レコード」で仕入れられたLDの鑑賞会が、50インチのプロジェクターで行われ――。そして呑む、呑む、呑む。

ちなみにスト2の基板は、US版のROMを解析して日本版に改造したもので、そこにタイトーのグラフィッカーが使っていたツール用コンパネを繋いで遊んでました。

で、岡本さんだけど、このネタでずいぶんとメシを奢ってもらったから、もう怨んでないかも(笑)。つうかアノ人なんか憎めないんだよねえ――。

投稿者 tsurumy : 2002年10月11日 06:00

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