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2006年06月20日

又も綴る「子供にゲームをさせよ論」のコト[前編]

「本日もまた、お忙しい中をお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。前回は、子供が何故TVゲームにハマるのか、その理由を『TVゲームは褒める装置だ』というキーワードから説明しましたトコロ、各方面から――特に、ご自分でゲームを遊ばれる方からも、思わぬほどの大きな反響をいただきまして、正直びっくりしています。しかも、そのほとんどが、『あるあるあるあるある!』…ってちょっと古いですね(笑)、まあ『納得した』という反響だったので、安心した次第です。

「あの後で、何人もの親御さんから、ゲームについて色々とご相談いただきました。…ところがですね、その大半が同じ質問ばかりなんですよ。というより、大きく分けて2つだけしかありませんでした。ひとつは、『ゲームは子供に悪影響を及ぼすのではないのか?』というご質問、もうひとつは『子供にゲームをとめさせるには、どうすればよいか?』というご質問でした。…おやおや、本日おいでになっている方々の中にも、うなずいている方が沢山いらっしゃいますね(笑)。この2つはどうやら、世間の親御さんにとっては共通の悩みだとお見受けします。

「実はこの2つ、根っ子が同じトコロにあるんですが――今回はそれについてお話をするコトにしましょう。長くなるかと思いますので、何度か休憩をはさみつつ、たっぷりとお話しさせていただきますので、よろしくお願い致します。

「まず――これはゲームを生業にしている身としては爆弾発言かもしれないんですが――TVゲームが子供に悪影響を及ぼすのかどうかといったら…『悪影響を及ぼし得る』これは間違いないコトだと考えます。

「…お静かに、お静かに! 駄目ですよ、ここまでしか聞かないで、『ゲームは悪影響がある』なんて間違えて覚えて帰っちゃ(笑)。『ゲーム』イコール『悪影響』なのではなく、あくまでも、ゲームは悪影響を及ぼし『得る』なんですから。この『得る』の2文字が重要です。つまり、ゲームは毒になる『可能性がある』というコトなんです。…そしてもちろん、薬にもなる可能性だってあるんです。

「もっと正確に云いますと、『ゲームとは脳に影響を及ぼすモノである』と云って良いかと考えます。…と云いましても、それは悪い影響という意味ではありません。単なる『影響』です。脳に影響を及ぼす力を、『善悪関係なく』持っているというコトです。ここは強調させてください『善悪関係なく』ですよ。

「例えば…ちょっと考えてもみてください。今、大ブームを巻き起こしている『脳を鍛える大人のなんちゃらトレーニング』というゲームがありますよね? あれなんか、脳活動にとても良い影響を与えてくれそうじゃありませんか。あれだってゲームです。しかも『脳に影響を及ぼす』と、堂々と謳っているゲームです。ゲームが脳に及ぼす影響を『悪』と決め付けてしまったら、何かおかしいコトになりませんか?

「念のため申しておきますと、『子供の未発達な脳にだけ悪い影響を与える』なんてコトは、有り得ません。少なくとも、科学的に証明されてはいません。『脳を鍛える大人のなんちゃらトレーニング』だって、『大人の』とは謳っていますが、大人だけでなく、子供が遊んでも『脳を存分に使う楽しさ』を味わえるモノです。実際、ワタシはここ10年ずっと子供向けのゲームを作ってきて、目の前でゲームが遊ばれるのを観察したり、あるいは色々なご意見ご感想をいただいたりしているのですが…お子さんの反応と親御さんの反応というのは、これがもう、驚くほど似通っているんです。特に、普段ゲームをされない親御さんほど、お子さんと同じような反応を返されますね。『子供にだけ悪影響』なんて、ゲームを作っているワタシの実感としては、全く有り得ません。

「世間には『ゲーム脳』だのなんだのと、親御さんの心配をいたずらに煽るような本や意見もあるようですが、ああいったデタラメが堂々と罷り通ってしまうほど、科学的には未開拓なのが現状なんです。ただ、脳科学や発達心理学の分野で既に定説になっている研究を基に推測しますと、ゲームが脳に対する影響力を持っているのは当然だとしても、それを『悪い影響』と決め付けるのは間違いだと云って良いでしょう。

「そもそもTVゲームの面白さの本質、つまり『人間がゲームを面白く感じる』根本は、年齢には関係ないモノなんです。それは、人間なら誰でも持っている機能――脳味噌の『学習』機能そのものなんですね。

「前回、ゲームのコトを、プレイヤーの『判断』に対して褒めたり叱ったりする『褒める装置』という云い方をしましたが、これを専門用語で『オペラント学習』と云います。よく研究室などで、マウスを迷路に入れて、正しい出口にたどり着いたらご褒美に餌を与える、なんて実験をやったりしていますけれど、見たコトはありませんか? あれと同じなんです。

「そしてこの『学習』というヤツは、人間、というか脊椎動物の脳味噌に、最初からプログラムされている『機能快』――快感のひとつなんです。覚えて、使って、成功して、ご褒美を貰えると『気持ちいい』。もちろん褒められるコト自体も気持ちいいんですが、それ以前に、学習が『成功』するコトそのものが気持ちいいんですね、脊椎動物は。…というか『人間』は。人間は、この『学習』という素晴らしい脳味噌のプログラムのおかげで、進歩発展するコトが出来たのですし、もっと云えば、学習という能力のおかげで、人類は環境に適応し、進化し、地球上で万物の霊長たる今の地位を獲得したというワケです。

「…なんだか、人類とか進化とか大げさな話になっちゃいましたが(笑)。まあ、ゲームの気持ちよさの元が『脳味噌の学習』にあるというコトは覚えておいてください。TVゲームの『ゲーム性』は、人間が生まれながらに持っている、脳味噌の機能を使わせていただいている、というコトです。そして何度でも云いますが、これには、大人・子供は関係ありません。子供の脳だけを変質させてしまうなんてコトもありません。

「さて、ここでいよいよ話を戻して――ワタシが先ほど申し上げました爆弾発言『TVゲームは子供に悪影響を及ぼし得る』…悪影響を及ぼす『可能性がある』、これについて詳しく説明するコトにしたいのですが…その前に、ちょっと休憩を入れたいと思います。その後には、いよいよ本日の核心部分に進みたいと思いますので、それまで、おトイレおタバコお飲み物などで、脳味噌を十分リラックスさせておいてください。――ではしばらく休憩に致します」

カテゴリー: 新・嘘六百

投稿者 tsurumy : 2006年06月20日 20:22

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