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2005年03月11日

GDC(3月10日)/ゲーマー心

"Rolling the Dice—The Risks and Rewards of Developing KATAMARI DAMACY"
Keita Takahashi

GDCに参加している欧米の制作者に大人気の「塊魂(カタマリダマシイ)」。そのディレクター高橋慶太氏が講演(しかも英語に同時通訳)するというコトで、ちょい大きめの部屋があっという間に満杯になってしまった。そういえば、GDCのAdvisory Board(外部委員)からも、Mark DeLouraとAlan Yuの2人が「オススメマーク」を付けている。ちなみに、講演のアタマで高橋氏を紹介したMark Cernyも、塊魂のサントラを持っているほどのファンだ。文字通り、「みんな大好き!塊魂」なのだ。

ほとんどの人間が、ヘッドセットで英語音声を聞いている。高橋氏の異様にマッタリとした味のある喋り方は、どのように通訳されたんだろう…鶴見も、ヘッドセットを借りて、そっちで聴けばよかったと、ちょっと後悔。

講演の内容は、初産が超難産で、しかも3年寝太郎だったという話。めでたしめでたし――ではなく、初めてのプロジェクトで、これだけ尖ったモノを初志貫徹出来たというのは、エラいものだと思う。高橋氏は、芸術系大学で彫刻をやっていたというコトだが、アッチ系の出身者は、曲がりなりにも「物作り」というか、自分の裡から創造物を引きずり出すやり方が解っているのだろう。丹を練る、というコトだ。違うか。いや違わない。

鶴見が聴いていたところ、講演の後半は高橋氏のグダグダなフィロソフィーばかり――と云ったら言葉は悪いが、つまりは「言語化しづらい」「世代的文化的に異なる者が共感しづらい」話になってきたように思った。奇しくも、高橋氏が学生時代に想ったという「『芸術』って内向き。世の中の役に立ってんのか?」みたいに、「『塊魂の講演』って内向き。GDCの役に立ってんのか?」になりかねない(失礼)。このままだと「東洋の神秘」で終えられてしまいそうな匂いがぷんぷんとしてきたので、質疑応答の時間に、英語で聴いている人間が塊魂を読み解く手助けになるような質問をぶつけてみるコトにした。

鶴見「より間口を広げるために、視覚的なインパクトの大きい『物理表現』をプログラム的に入れるのが近年のトレンドだと思いますが、何か特別に意図して入れたものはありますか?」
高橋「全くありません」

鶴見「まったく新しいタイプのゲームは、難易度調整が難しいでしょうし、また、より広いユーザー層にやってもらうためにも、難易度調整は重要だと思いますが、どのようにやりましたか?」
高橋「マニア向けではなくしました」(簡単にしたというコト?)

なんだか、暖簾に腕押しというか糠に釘というか。とりあえず鶴見の観測では塊魂は東洋の神秘として認定されたようだ。んじゃ、そういうコトで。

"The Heart of a Gamer"
Satoru Iwata

任天堂・岩田社長の講演を聴く直前、近くのトイレに行ったら、SCEアメリカのKAZ平井社長がいた。なぜか平井さんとはトイレでよく会うんだけど(笑)、それはともかく、平井さんも岩田社長のスピーチを聴きに来たんだそうな。ちなみに、昨日のマイクロソフトの講演を聴いたかどうか尋ねると、平井さんが行くと大騒ぎになるから止めたとの由。じゃあ、任天堂なら良いのか――については、読者の皆様の賢察に任せたい(謎

岩田社長は、通訳を入れずに英語で講演したのだが、これが殊の外良かった。スピードは遅いが、自信たっぷりで明瞭かつフレンドリーなスピーチ。その内容も、制作者にとって共感しやすいものに溢れていたように思う。

例えば、岩田社長が作った初めてのゲームは、ヒューレット・パッカード(HP)の関数電卓を使った、グラフィックスの無い野球ゲームだったとか…

秋葉原(らしき街)が、学生時代の「思い出の街」だとか…(そんな岩田社長は、「萌えの街」と化した今の秋葉原をどう思っているのだろう。機会があったら訊いてみたいものだ…笑)。

また、「立場は社長でも、頭はゲーム制作者であり、それ以前に心はゲーマーである。そういう意味で、GDCに参加したゲーム制作者の皆さんと同じだ」という言葉なども、制作者達の心を鷲づかみにしたのではないか。少なくとも、高校生の頃にワンボード・マイコンでプログラムを組み、秋葉原に年4回ほど通っていた経験を持つ、鶴見のハートは鷲づかみにされまくりだ。SCEサイドのメンバー間でも、「良いスピーチだった」と評判だ。この「共感出来る」雰囲気は、通訳を入れずに英語で喋ったからこそだろう。

任天堂の「REVOLUTION」の中身が「IBM+ATI」だというコトは、云ってしまえば、XBOX2と変わらない。でも、昨日のマイクロソフトによる講演と岩田社長の講演の両方を聴いた制作者なら、やっぱり任天堂に肩入れしちゃうよなあ――と、他人事だから思う鶴見であった。

REVOLUTIONは「Backward Compatible」、即ちゲームキューブのソフトも動くので、まだ遊んでいないGCのソフトは、REVOLUTIONを買ってから遊ぼうと思っている。

"Fable: Lessons Learned"
Peter Molyneux

Peter Molyneux氏ですらプロジェクトがグダグダになる、という失敗談。でも製品は完成したのだから、さすが名匠・Molyneux氏だとも云える。

思うにマイクロソフトは、Molyneux氏がプロダクションのコトも全て見通した上で、野心的な仕様を作っていたのだと勘違い(というより無責任な希望的観測)していたのだろう。ところがMolyneux氏は、慣れない家庭用ゲーム機の制作を甘く観て、出来るコトの15倍(!)もの仕様を構築してしまった、と。野心的にも程がある(笑

劇的な講演ではなかったけれど、ディテールの話で共感出来る部分が異様に多かった。とは云え、「ゲームの解りやすさ」についての基準――

「盲で腕のない子供でも、最初の何面かはクリアできるべきである」(ピーター・モリニュー)
"A blind child with no hands should be able to beat the first set of levels!" (Peter Molyneux)

それはハードル高すぎかも>モリニュー先生

【追記】
この晩、とあるパーティで高橋慶太氏と喋る機会があったので、鶴見の質問の意図を説明しておいた。喋ってみたら、高橋氏はとても才能溢れる若者で、なんだか東洋の神秘は東洋の神秘でアリなんじゃないかとも思った。まがりなりにもノウハウの塊・ナムコに所属してるワケだから、尖った作家性を保ちつつ、商業用デザインの技法技巧を援用する術を身に付けるコトだろうし。

「技巧が鼻についてはいかんが、技巧を否定しては芸術は成り立たないのだッ」(海原雄山)※ただしウロ覚え

ちなみに、鶴見の受け取ったトコロによると、塊魂は「ゲームに物理的な挙動を採り入れよう」と意図したワケではなく、「転がす」というイメージを如何に実現するか、という視点から制作されたようだ。なので、演算は相当テキトーだとも聞く。そうだよなー、企画ってそういうもんだよなー。とまあ、鶴見は高橋氏と喋り、「技巧優先」な垢にまみれきった自分に、改めて気づかされるのであった。

関係ないが、後から乱入してきたGDCディレクターのJamil Moledinaが、特製の「塊魂帽子」を高橋氏にプレゼントしていた。ホントに「みんな大好き塊魂」だ。いい光景なり。

カテゴリー: 六百式見聞録

投稿者 tsurumy : 2005年03月11日 05:39

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