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2004年07月09日

嘘六百・最終回/「レビューと市場と制作者と」(5)

遅まきながら、今年のE3の感想をば。

印象に残ったのは、アメリカのゲーム関係者に云われたこの言葉――

「日本市場って大丈夫? 食えてる? 無くなっちゃわない? いざとなったらアメリカで一緒に仕事する?」

余計なお世話じゃい! と、その場は軽口を叩いて終わったが、正直云えばありがたい申し出ではある。

昨年のGDCで講演して以来、私のような末端制作者にも、このようなお声が掛かるようになったのだから、今年のGDCで喋った多数の日本人講演者の方々にも、同様のお誘いが数多くあった事だろう。昨年、私が「同時通訳のテストケース」として人柱になったがために、日本人講演者が増えたのだとしたら、私のした事も意味があったのであるなあ、と密かに誇らしく思っている鶴見である――。

私はアメリカの制作会社と長年にわたって仕事をしている割には、英語が大の苦手だ。友人によれば、アルコールが入ると途端に流暢に喋り始めるとの事なので(笑)、6年以上もの英語教育によって、潜在能力は蓄積されているのだろう。潜在能力だけは。が、ミーティングの席上で飛び交う英語も、自分の関係しているゲームの内容しか解らないし、発言だってたどたどしいばかり――。

逆に云えば、こんな私が曲がりなりにも海外の制作会社と仕事をしていられるのも、ひとえに「ゲーム」であり「日本人」だからだ。日常英会話には不自由しても、「ゲーム」という共通の知識ベースを前提とした英会話ならなんとかついていけるし、何より海外のスタッフも、こちらの発言には、懸命に耳を傾けてくれる(ありがたい事だ)。彼らは依然として日本を――日本のゲーム業界に携わる人間の経験と考え方をリスペクトしてくれているのだ。市場としての日本が縮小したと云っても。だからこそ、私のような人間でもかろうじて仕事になっているのだし、もちろん貢献しているという自負だって、ある。

確かに現時点だけを観れは、好調な北米・欧州市場に比べて、日本市場は低調だ。ブランド市場化はいずこも同じだが、排他性が極度に強いのだ。全世界で大ヒットしたあのシリーズですら、日本での売り上げは数十分の1に過ぎず、続編だって出やしない。FPSだって売れない。実験作は無視されまくり。
――しかしそれは、あくまで「市場」としての話。制作者にとって「創造性」という点では、世界は地続き、共同体なのだ。

例えば、私が今回のE3で最も注目したタイトル『Donkey Kong Jungle Beat』。『ドンキーコンガ』のタルコンガを使った横スクロールアクションという、実にナイスなアイデアのタイトルなのだが、ご存知の通りこれは、『太鼓の達人』が巡り巡って転生した姿だ。そもそも日本のアーケードにカジュアルユーザーを呼び戻そうとして産み出された、極めてドメスティックなアイデアが、E3においてアメリカ人に遊ばれ、ひいては全世界のゲーム業界を豊かにする――これを「地続き」と云わずに何と云おう!

もちろん、ゲームの歴史上、こんな例は枚挙に遑がない。様々な文化を背負った多数の製作者が、時には「パクリ」、時には「コラボ」して、ゲーム業界という共同体に、ギリギリの状況からなけなしのアイデアを投入し、それがゲーム業界を発展させる――


――なんだかね、そんな事をつらつらと考えつつ、LAの夜景を見ながらPSパーティの会場で飲んだくれてたら、不意に涙ぐんじまった訳ですよ。それが今年のE3。


それでは皆さん、またどこかで!

つうワケで、2年にわたりドリマガで連載してきた嘘六百も、今回で終了。2年間で52回ってコトは、ちょうど隔週ペースだったのかな。終わり方がトートツな様な気もするが、「ドリマガがリニューアルするから最終回にしてくれ」とのオーダー自体がトートツだったので、まあしょうがあるまい。

ちなみに、最終回の原稿を渡したあたりで、編集ウメちゃんからは、「リニューアル後も、連載を別の形でやるかどうか相談したい。今度連絡する」と云われていたので、色々とオモシロネタをストックしておいたのだが、それ以来3ヶ月、いまだもって、何の連絡もないまま放置プレイ…。


とまあこの連載、ドリマガ読者にはウケは良くなかったようだが、ゲーム業界周辺には読者が多かったようで、反応も多数いただいている。といっても、大半がドリマガを購読せずに「会社で読んだ」だの「立ち読みした」だの、「WEBに再録されたのしか読んでないんだから、早くアップしろ」といった脅迫だの…なんつーか、俺の気持ちを一言で云えば、「買えよな」だ(笑)。ファミリートレーナーのCMか…

特に多かったのが、元セガネットワークの人間から届いた、失われてしまった「古き良きセガ」の記述に対する共感の声だ。

俺が在籍していた頃からすると、開発スタジオが分社したかと思ったら、また最近統合されたりと、セガの開発体制は二転三転している。

個人的には、世界最大級の大所帯から生まれる「超スケールメリット」こそがセガをセガたらしめていたと思っているので、今回の統合は大歓迎なのだが、願わくば、横のつながりを補強する「喫煙室」「リフレッシュルーム」の類をしっかり完備して欲しいものである(笑)。いやマジで。


最近、ミクシィなんぞで昔の知り合いと旧交を温めているのだが、たまに飲んだりすると、皆が皆、今のゲーム業界の在り方に不満を抱いている。それはもう、99%の人間が。

なのに、その不満がゲーム業界を動かすムーブメントになったという話は、ついぞ聞かない。不平不満は澱のように溜まっていくばかりだ。

もちろん俺も、嘘六百で提言めいた物をしてはいるものの、実際には無力な一業界人に過ぎず、そうした不平不満はぐっと飲み込み、本業にいそしむ毎日だ。

――本当にこれでいいのか?

――俺たちは、一生ゲームで食っていけるのか?

嘘六百は終わってしまったが、いつかどこかで再び、ゲーム業界の未来について考える場を持ちたいと思う。次は、視線を過去に向けるのではなく、未来に向けて。

その日まで、しばしお休み――読者の皆さん、またどこかで。


以下余談。
本文最後で今年のE3でのパーティについて書いたが、今年のPSパーティは凄かった。場所がなんと、ドジャースタジアムを臨む小高い丘で、このパーティの為に?2ケタ億円?かけて造成したのだそうな。

スタジアム脇の駐車場からトラムでトコトコ登っていくと、何本もの色とりどりのサーチライトが幻想的に夜空を照らし、今まで登ってきた方向をふと見下ろせば、LAの夜景! 過去に潜り込んだどのパーティよりも、盛り上がるロケーション。さすがアメリカ、パーティにかける意気込みが違う。

そんなパーティ会場での一コマ。

会場へと上がるトラムの乗り場で、チケットを持たずに乗ろうとして警備員に制止されてた日本人がいたので、誰かなあ、と顔を見たらばそれがまた、カプコンの辻本社長!(面識はないが、顔だけは知ってる)

――てな話を、会場に入ってすぐに会った佐伯雅司さんに話したところ、さっと顔色を変えて、どこかに携帯で連絡…それによって、辻本社長は無事入場するコトが出来たのだそうな。めでたしめでたし。

投稿者 tsurumy : 2004年07月09日 06:00

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